名証単独上場銘柄
日本国内の株式の公設取引所と言えば、現在全国に4つある事は投資家の皆さんならご存知の事でしょう(そして、かつてはもっと沢山あった事も…)。かつてのツートップだった東証と大証は、2013年に合併により東証へ統合され、8697 日本取引所グループ傘下で運営されていますが、札証、名証、福証の地方3取引所に関しては、今も(システム面こそ繋がりはありますが)それぞれ別個に運営しています。
現状としては、日本株=東証と言うくらいに一極集中化が進んでおり、地方3取引所はいずれも「魅力的な上場企業が少ない」「市場参加者も少ない」「知名度が低い」等の悪循環に陥っており、残念ながら市場機能の存在自体が疑問視されています。以下は、2021年(東証のみ2021年度)の各取引所の年間売買高並びに売買代金の比較です。
- 東証 売買高:4136億4081万株 売買代金:833兆3051億2800万円
- 名証 売買高: 1億1641万株 売買代金: 745億7654万円
- 札証 売買高: 1億4837万株 売買代金: 343億8700万円
- 福証 売買高: 1421万株 売買代金: 133億8200万円
これを見ても明らかなように、地方3取引所を合計しても東証の数千分の一程度の規模感しかありません。言ってしまえば、存在自体がもはや空気みたいなものです。意識しないとそれがある事すらも気にならないレベルってわけです。このうち、一応二番手に付け、一応日本で二番目に規模の大きい証券取引所が、愛知県名古屋市にある名古屋証券取引所(名証)です。今回はそんな名証上場銘柄のお話です。
名証のみに上場する銘柄
複数の市場に上場(つまり掛け持ち)している所謂「重複上場銘柄」を除き、名証のみに上場している銘柄を「名証単独上場銘柄」と呼んで*1います。2023年2月19日時点で、名証上場企業数は275ありますが、そのうち単独上場は58銘柄です。ざっと2割くらいですかね。名証は東証と同じく3部制でして、「プレミア」「メイン」「ネクスト」と分かれますが、単独上場銘柄の分布としては、プレミア3、メイン41、ネクスト14銘柄と、メインが圧倒的に多いです。東証に対しては、プレミア=プライム、メイン=スタンダード、ネクスト=グロースという感じになりますが、これは2022年4月の東証再編に合わせたものに過ぎず、実は東証とは若干意味合いが異なります*2。なお、プレミアとメイン市場に関しては、基本的には中京圏(愛知、岐阜、三重の3県)に本社を置く若しくは事業のウエイトを置く企業がほとんどです。その点、ネクストだけは上場基準が緩いので、他地方に本社を置く企業が大半を占めます。まあ言い方は悪いですが、利用している&されてしまっている側面があるように思います。
なお、名証銘柄であっても取引に特別な制限はなく、主要なネット証券でも東証と同じように取引ができます(楽天証券に限ってはスマホ・タブレット向けアプリでは非対応)。唯一注意すべき点としては、ザラ場が他市場より30分長く、大引けが15:30である事でしょう。
名証単独上場銘柄としての「伊勢湾海運」
さて、2023年年初PFにも記載していますが、私も名証単独上場銘柄を1銘柄だけ保有しています。それが、メイン市場上場の9359 伊勢湾海運です。
社名の通り、広くは伊勢湾、その中でも日本一の貿易港である名古屋港を拠点としている企業です。勿論、本社も名古屋市港区にあります。「海運」を称しているので一般的には船会社と思われがちですが、同社はむしろ大型船舶は1隻も保有しておらず、港湾運送業、倉庫業、通関業を中心に手掛けています。要するに、船で運ぶのではなく船に載せる(船から降ろす)業務全般です。実際、証券コード上の33業種分類でも、同社は海運業ではなく倉庫・運輸関連業に分類されています。
私が伊勢湾海運に投資している理由ですが、まあ一番は希少性があるからですね(笑) 勿論、さすがにそれだけで投資対象とするには決め手に欠けますが、名証が公式に定義付けているように、「安定した経営基盤が確立され…継続的な保有対象となりうる」という点に当てはまったのも結構大きいです。自己資本比率は70%超で、また皮肉にも流動性が低いがゆえに安定株主が多く、短期的な株価の乱高下にも巻き込まれにくい。さらに、23年3月期で連続2期増益(予想)と、目先の業績面も問題なし。むしろ業績に関しては、前期からの海運(コンテナ船)の大相場の恩恵を受けており、その割には株価は安値で放置され、配当利回りも買い値基準で4%超と…客観的に見たら「買いでしょ!」と思う人も多いと思います。私もたまたまそのタイミングで希少性の観点から名証単独上場銘柄に興味を持ったというお話です(笑)
名証の今後
名証上場銘柄は年々…どころか日に日に減り続けており、まさに3日前(2/16)にも、プレミア市場上場の2540 養命酒製造が上場廃止(東証との重複上場解消)を決定した事に伴い、1ヶ月間の整理銘柄指定を受けています。少し遡っても、22年9月にはメインの1438 岐阜造園が、12月にはプレミア単独上場四皇の一角だった5461 中部鋼鈑が、それぞれ東証スタンダード、プライムに(重複)上場を果たすなど、大企業の重複解消だけではなく、名証からのステップアップ流出も相次いでいます。おそらく今後も、コスト削減のための名証重複上場廃止が続く一方で、新規上場(IPO)が目に見えて増加する事もなく、残念ながら市場としての活性化は見込めそうにもありません。10年以上も前から有識者の間で議論される地方市場の存在意義ですが、この先10年間がどうなるかと言ったら、まったくもって不透明と言えるでしょう。
*1:俗称ですがまあ割と使っている投資家は多いと思います。
*2:名証公式サイトにある通り、主に上場審査基準に大きな違いがあります。