趣味としての株式投資

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デンマーク史上最大の企業合併

2022年12月12日、北欧の証券市場では大きなニュースとなる企業合併が発表されました。

それが、デンマークのNovozymes A/S*1とChr. Hansen Holding A/Sの合併です。

www.reuters.com

実は、デンマーク史上最大の2企業間合併という事で、北欧をはじめヨーロッパでは当時そこそこ大きく取り上げられましたが、日本では上記のロイター日本語版がサマリーで少し触れているくらいで、まったくと言っていい程話題にはなっていません。その代わりにと言ってはなんですが、当ブログで少し紹介させていただきます。

 

 

Novozymes と Chr. Hansen

Novozymesはノボザイムズ、Chr. Hansenはクリスチャン・ハンセンと読みます。まあそのまんまですね。

Novoと聞けば米国株投資をやっている人にはピンと来る人もいるかもしれませんが、米国市場にも上場しているデンマークの大手製薬会社Novo Nordiskと似ていますよね。当然です。なぜなら、2000年にNovo Nordiskの発酵製品事業がスピンアウトしたのがNovozymesですから。

Chr. Hansenの事業内容もNovozymesに近く、中でも特に細菌培養に強みを持っています。世界で最も有名なビフィズス菌「BB-12」は同社が開発し商標を持っています。

これだけでも両社には共通項がありそうですが…実際のところ共通項だらけだったりします。そもそも両社とも筆頭株主中間持株会社であるNovo Holdings A/S(持株会社はNovo Nordisk Foundation, ノボノルディスク財団)ですので同じノボ系(?)ですし、日本法人(ノボザイムズ ジャパンとクリスチャン・ハンセン・ジャパン)を設立し日系企業と提携している点も同じです。

デンマークの株式市場

ここでちょっと話は逸れますが、両社が上場しているデンマークの株式市場の話をば。

北欧5ヵ国のうちノルウェーを除いた4ヵ国の主要市場はNasdaq Nordicブランドの下で運営されています。そう、あのアメリカのNasdaq, Inc.です。元々は各国バラバラに運営していたのをNasdaqが買収=集約したようなものです。

デンマークの場合は、首都であるコペンハーゲンNasdaq Copenhagen市場を置いています。通貨は、デンマークEUに加盟しているもののユーロを採用していないので、自国通貨であるクローネ(デンマーク・クローネ, DKK)建てです。ただしユーロペッグ制なので、日本円を含めて他国通貨に対してはユーロの動きにほぼ連動します。

日本で言う日経平均株価のような株価指数は「OMXC20」です。まあ代表的な20銘柄ですね。OMXは旧運営企業の名称ですが、そのまま引き続き使用されています。OMXC20の構成銘柄で有名な企業と言えば、一番は海運会社のA.P. Møller - Mærsk(通称:マースク)でしょう。日本でも街中を走るマースクの海上コンテナを見かけた事がある人も多いかと思いますが、2020年まで輸送能力世界一だったコンテナ船部門も含め、世界最大規模の海運会社です。他に、先述のNovo Nordisc、同じく製薬のGenmab(ジェンマブ)、日本ではサントリーが輸入・販売するビールブランドのCarlsberg(カールスバーグ)等がありますね。勿論、NovozymesとChr. Hansenの2社も採用銘柄です。

ちなみに、非上場企業でも有名な企業があって、例えば、日本でも多数の店舗を展開する雑貨店のFlying Tiger Copenhagen(フライング タイガー コペンハーゲン)の運営企業であるZebra A/Sや、ブロック玩具のLEGOを展開するのもデンマークの企業ですね。

デンマーク自体には厳格な外資規制はないので、日本の個人投資家でもデンマーク株に投資する事は可能です。ただ、主要なネット証券ではまず取扱いがないので、大手証券(店頭・電話取引)や外資系証券等の利用に限られます。また、欧州株全般的にそうですが、米国株ほどの需要がないので取引手数料は高めです。1注文ごとに最低でも約定金額の1%以上はかかります。売買の往復で2%以上かかるという事ですから、残念ながら時間軸短めでも気軽に~という感じではないのが現状でしょうか。

なお、NovozymesとChr. HansenはADR米国預託証券)も上場しています。まあ、株式と同じで、売買可能かどうかは証券会社次第ですが。

合併の概要

話を元に戻しまして、両社の合併について*2、簡単にまとめると以下のような形です。

  • Novozymesを存続会社、Chr. Hansenを消滅会社とする株式交換による吸収合併
  • Chr. Hansen1株に対しNovozymes B種株式の新株を1.5326株の割合で交付
  • Chr. Hansenは上場廃止後、解散
  • 合併完了は2023年の第4四半期中を予定

基本的には日本でも行われている企業合併と同様のスキームで、両社の臨時株主総会での決議を前提としています。異なるのは、Chr. Hansen株との交換になるNovozymesのB種株式(B-shares, ティッカーNZYM-B)でしょうか。日本でも「種類株式」として会社法で規定されていますが、実際に上場させているのは2593 伊藤園の1社(25935 伊藤園第1種優先株式)しかありません。しかも、伊藤園のそれは議決権がないかわりに普通株式よりも配当金額の高い優先株ですが、NovozymesのB株優先株ではありません。じゃあ何なのかと言うと、むしろ劣後株です。筆頭株主であるノボホールディングス(間接的にはノボ財団)が保有しているA種株式こそが優先株で、A株は1株につき20個の議決権があります。それに対し、B株の議決権は1株につき2個です。発行済株式総数で見ても、ノボHDは全体の25.6%しか保有していませんが、議決権ベースだと72.7%保有している事になります*3。つまり、親会社による支配・意思決定を確実にしつつ、経営介入や敵対的買収から守るために2種類の株式を発行していて、一般の投資家が市場で売買できるB株は、極端な話、会社の意思決定には何ら影響を及ぼさない、実質的にインカムゲインキャピタルゲインのためだけにある代物です。

次に1:1.5326の合併比率ですが、発表前の終値比でChr. Hansenの株主に対し49%のプレミアムが支払われる計算になります。ただし、発表直後にNovozymesが希薄化懸念と思われる売りで急落したので、結局Chr. Hansenも連れ安(連動)しています。当然ですが、これは株式交換が効力を発生するまで上昇しようが下落しようが続く現象です。

なお、2023年1月31日時点での時価総額は、Novozymesが約807億DKK(日本円に換算すると約1兆5300億円)、Chr. Hansenが約664億DKK(同1兆2600億円)です。日本企業で言うと、Novozymesが6645 オムロン、Chr. Hansenが7202 いすゞ自動車に近いです(両社とも日経平均採用銘柄ですね)。それが、ましてやデンマーク、OMXC20のたった20銘柄のうちの2銘柄ですからね。インパクトも大きいはずです。

おわりに

2023年年初PFにある通りですが、私もChr. Hansen株を保有しています。一応Novozymesとの合併が発表される前から持っているものでして、発表後に株価が急騰して「何が起きたんだ!?」と驚きました(情報も人口も多い米国株はともかく、大抵の外国株は情報収集の難しさとタイムラグがまさに投資する上でのネックでもあります)。

元々、数年以上の長期目線で買っているので、プレミアムが乗ったからと言って売る事はありません。それ以前に、口座のある証券会社ではそもそもNovozymesのB株の取り扱いがないので、むしろちゃんと株式交換されるのかと心配になっていたり。まあ最近になってようやくコーポレートアクションの予定に載ったので大丈夫かとは思いますが…。

 

*1:A/Sはデンマーク語のAktieselskabの略で、日本語で直訳するとなぜか「合資会社」となりますが、実際には(株)=株式会社と同じ意味かと。

*2:詳細情報は英語ですが公式の特設サイト(https://www.power-with-biology.com/)で公開されています。

*3:Novozymes: 年次報告書(2022)より。